日本昆虫科学連合Union of Japanese Societies for Insect Sciences

第7期 代表挨拶を更新しました

 

代表就任のご挨拶

連合代表 小野 正人(玉川大学)

このたび日本昆虫科学連合第7期の代表に選出されました。任期となる2年間、加盟団体代表者の方々と一丸となり、当連合の運営に微力を尽くしたいと存じます。運営チームの活動する意義、創出すべき成果は、連合加盟の17学協会の学術交流、設立目的の達成に資するものでありたいとの方針を念頭に事業展開を試みる所存です。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

当連合は、平成22(2010)7月24日に日本学術会議会議室において開催された設立総会を機に発足され、早12年間が経過しました。連合の規約第2条には「昆虫科学および関連学問分野の研究および教育を推進し、我が国におけるこの分野の発展と社会的普及に寄与すること」が目的として掲げられています。昆虫類は有史以前より、人類にとって、感染症、食料資源、農業生産、環境保全、教育・文化、バイオミメティクスなど多方面で深い関わりをもち続けてきた身近で稀有な生物と言えます。昨今の急激な気候変動、人口増加など地球規模で「人類が21世紀を全うできるか」という重要な問題が議論されている中で、様々な分野の昆虫科学者が協働して、かかる課題へ俯瞰的な見地から取り組む姿勢が期待されています。個々の専門分野の深化と学際的な連携の両面が求められる中で、直面する喫緊の課題に昆虫科学に関わる「チームジャパン」の立場から対峙する体制の強化は必須と言えるでしょう。そのような情勢の中、内閣府のムーンショット事業「目標5」において、昆虫科学連合に加盟の学会員がプロジェクトマネージャーを担う研究開発プロジェクトが2題も進行中で、昆虫科学の英智を活かし「2050年問題」の回避に向けて持続可能な食料生産の創出などに挑戦しているのは、誠に時節を得たものであり心強い限りです。

連合の担う重要な事業の1つとして、公開シンポジウムの開催があります。連合発足の端緒をつくった日本学術会議農学委員会応用昆虫学分科会との共催で開催され、現在までに12回を数えています。新型コロナウィルスの感染拡大が続く中で直近の2回はオンライン開催となりましたが、北海道から沖縄まで全国から約350名もの様々な属性の参加者がインターネットでつながりました。その中には高等教育機関の関係者だけではなく初等中等教育機関の生徒も含まれ、講演者と参加者の間で活発な交流がもたらされ、公開シンポジウムとして対面にはなかった大きなメリットも実感できました。今後の運営については「対面の代替策ではないオンライン」を念頭に運営形式を思料して総合的にベストに近い選択ができるようにしたいと考えています。

急速に進んできたグローバリゼーションは様々な面での国際協力を促しましたが、人と物資だけでなく新型コロナウィルスをも拡散してしまい、そのパンデミックがグローバリゼーションそのものを止めてしまうという皮肉な状況が続いています。そのような中でも連合の果たす役割として、加盟学協会の会員間のかけがえのない国際学術交流の場を提供すべく、2024年開催される第27回目の国際昆虫学会議(International Congress of Entomology: ICE)の招致委員会を置き、それを達成したことは大きな成果といえるでしょう。この大会(ICE2024 Kyoto)は、8月25日~30日の6日間にわたり、国立京都国際会館で開催されることが決定し、現在その組織委員会が「New Discoveries through Consilience」のテーマのもとで活動を本格化させています。アジア地域初の開催地として京都で行われたのが第16回大会で1980年のことですので、実に44年ぶりの日本開催となります。もう3年も続く感染症のパンデミックは予断を許しませんが、私たちはそれに対する備えをするとともに、近い将来必ずや人類がそのパンデミックを乗り越える時がくることも信じてまいりましょう。そして、多くの海外からの研究者や同伴者が開催地(京都)の光(文化・伝統、自然等)を観る、文字通りの観光を通じて日本を知って頂くことへの大きな弾みとなることも期待したいところです。連合としては、ICE2024 Kyotoが日本の昆虫学のプレゼンスを国際的に高め、皆様の有意義な学術交流の場となるように日本学術会議など関係諸機関と協力しながら鋭意努めてまいる所存です。特にICE2024 Kyotoで多くの若手研究者が口頭発表に挑戦し、世界との距離を縮めるチャンスを掴むことを期待しています。私事になりますが、大学2年生(1980年)の夏に当時の指導教員に勧められて第16回国際昆虫学会議に参加する機会を得ました。今はもう故人となられた多くの著名な国内外の研究者が、片言英語しか話すことのできない日本人学生に向き合ってくれる。その時、今まで触れたことがない清々しい風に包まれたような感覚になったのを記憶しています。連合の果たすべき機能として加盟学協会の会員に対する「物的報酬」だけではなく目に見えない「感情報酬」も包括されていることが重要ではないかと感じられます。「日本昆虫科学連合」にはこれで完成という形はありません。激しい時代の潮流の中で価値観は常に変化しており、その時々の最適解に近づけるよう絶えず模索し続けることは宿命ではないかと思います。その中で、加盟学協会の皆様が連合に帰属することへの魅力を感じ「エンゲージメント」を高めていただける施策や想いが組み込まれているか、を基準に皆で考えながら運営にあたり、負託に応えていきたいと念じています。

21世紀に私たちが抱える様々な課題に対する日本昆虫科学連合加盟団体の総括的取り組みは、国連の掲げる持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)に通じるものであり、さらに内閣府の示すSociety 5.0の中で新たな社会経済システムを安全・安心で盤石なものとする上で欠くことができない「食料の持続的確保」、「地球環境の保全」、「衛生環境や健康の保持」などに資するものです。
私たちは、膨大な知に対して、限られた命という時間で立ち向かわねばなりません。先達たちは、個々の時間を世代で紡ぎ、累積的伝承性をもって、夢を具現化できることを示してくれました。学協会ごとの縦の糸と連合の横の糸を幾重にも織り重ね、近くで見ると個々の糸が光るも、遠くからみると美しく一体化したタペストリーの模様のような属性を発出できる「昆虫科学研究者の壮大なコミュニティー」でありたいと感じております。第1期(山下興亜代表)~第6期(志賀向子代表)までに積み上げられた貴重な知見を継承できることに感謝しつつ、日本の昆虫科学の歴史を織りなす第7期の時空間を皆様方とともに歩ませていただけることを嬉しく感じています。ご支援、ご協力の程を宜しくお願い申し上げる次第です。


日本昆虫科学連合 代表 小野 正人
(玉川大学大学院農学研究科/学術研究所)